「日本はハイブリッド大国だ」という認識は、少し修正が必要かもしれません。
2026年2月の国内電動車販売はEVが前年同月比77.4%増と6カ月連続で増加した一方、電動車の9割を占めるHVは同11.9%減の2桁マイナスで、8カ月連続のマイナスとなりました。乗用車に占める電動車の販売比率は54.4%と、前年より1.3ポイント減少しています。
この数字を初めて見たとき、少し意外でした。EVが増えているのはわかる。でも「HVが8カ月連続で減少している」というのは、どういう意味なのでしょうか。「日本の自動車市場から電動化が後退している」のか、それとも全く別の構造変化が起きているのか——データを丁寧に読み解いてみます。
まず数字を整理する——「電動車」の中身を分解する
混乱を避けるために、用語と数字を整理します。
| 区分 | 定義 | 2026年2月 |
|---|---|---|
| EV(BEV) | 100%電気自動車 | 前年比+77.4%(6カ月連続増) |
| PHEV | 外部充電できるハイブリッド | 増加傾向 |
| HV | ガソリン×電気のハイブリッド(充電不要) | 前年比△11.9%(8カ月連続減) |
| 電動車全体 | HV+EV+PHEVの合計 | 前年比△9.5%(8カ月連続減) |
EVは増えているのに、電動車全体は減っています。これは電動車の9割を占めるHVが大幅に落ちているからです。HVの減少幅が大きすぎて、EVとPHEVの増加分では補いきれていない状態です。この「電動車全体が減っているのにEVは増えている」という構図が、今の日本市場の複雑さをよく表しています。単に「電動化が進んでいる」とも「後退している」とも言いにくい、過渡期特有の数字です。
HVが減っている理由①:乗用車市場全体の縮小という大前提
重要なのは、HVだけが特殊に落ちているわけではないという点です。乗用車市場全体も同7.3%減と減速しており、市場全体の縮小の中でHVの販売台数も連動して落ちている面があります。
つまり「HVが嫌われてEVに流れている」という単純な構図ではなく、「乗用車全体のパイが縮んでいる中で、HVもその影響を受けている」という側面が大きい。乗用車市場全体が縮小している背景には、少子高齢化による免許返納の増加、若者の「クルマ離れ」、半導体不足が一巡した反動減——これらが複合的に重なっています。特に2022〜2023年は半導体不足で納車が遅れた分の需要が2024年に集中し、その反動で2025〜2026年は全体的に落ち着いているという見方もあります。
この「市場縮小」という大前提を忘れると、HVのマイナスを「EVへの乗り換えが起きている」と過大解釈することになります。データはもう少し複雑です。
HVが減っている理由②:買い替えサイクルと「直接EV移行組」の登場
ただし、市場縮小だけでHVの8カ月連続マイナスを全部説明するのも難しい面があります。ひとつの仮説は、「HVの買い替えサイクルが変わってきた」というものです。2015〜2018年頃に売れたHVが、ちょうど8〜10年の買い替えサイクルに入っています。その買い替え需要が、今回は「次もHV」ではなく「今度はEV」に向かっている可能性があります。
EV・PHEVの新車販売比率は2026年4月時点で3.21%と、前年同月の2.18%から約1ポイント上昇しており、2026年3月には一時4.07%まで上昇しています。この上昇がHVの減少と同じ時期に重なっていることは、「HV→EV」という移行の流れを一定程度示唆しているとも読めます。
実際に自分がモデルYを購入した2年前を振り返ると、それまでプリウスに乗っていた知人が「次はEVにする」と決断したケースがいくつかありました。「次もHVでいいか」ではなく「いっそEVに変えてみよう」という動機で動く人が、補助金の充実とともに増えてきている印象があります。
HVが減っている理由③:HV市場の「成熟と飽和」
もうひとつ見落とせない要因があります。HV市場は実は「成熟期」に入りつつあるという点です。トヨタのプリウス、ヤリス、カローラ、アクア——人気のHVラインナップはここ数年でほぼ出揃いました。従来型のHVに技術的な「驚き」や「新鮮さ」を感じにくくなっている面があります。一方でEVはここ2年で選択肢が急拡大しました。2026年に入り、スズキeビターラ・日産リーフ B5・トヨタbZ4Xツーリング・ダイハツe-ハイゼットカーゴなど複数の新型EVが矢継ぎ早に投入されています。「新しいものを試したい」という購買心理が、成熟したHVよりも新しいEVへ向かいやすくなっているという側面も、HV販売の頭打ちに影響していると考えられます。
日本特有の「HV大国」構造はなぜ生まれたのか
1997年に世界初の量産型HV「プリウス」を世に出したトヨタの先行優位があります。その後20年以上をかけて熟成されたHV技術は、燃費・信頼性・コストの三拍子が揃い、ガソリン車からの乗り換え先として広く受け入れられました。一方で充電インフラへの投資が遅れた日本では、「充電できなくても走れる」HVの方が現実的な選択肢であり続けました。集合住宅が多く自宅充電できない人口が多いという住環境の特性も、HVが選ばれ続けた理由のひとつです。
世界的には中国では2025年のEV販売が約1,062万台に達し、普及率は約30.9%を記録しました。2021年時点のシェアは11.1%であったことから、わずか数年で市場構造が劇的に変化しています。この中国の変化速度と比べると、日本の3%台というEV普及率は確かに遅いように見えます。ただし住環境・充電インフラ・HVという独自の代替手段があるという構造的な違いを無視した単純比較には注意が必要です。
EVの77%増を支えた「主役」は誰か
EVが77%増という好調を支えたのは、具体的にはどの車種なのでしょうか。トヨタ・ホンダで新型車の投入効果が続きEV市場を押し上げており、3月以降は日産とスズキの新型EVの登録が本格化し、さらに台数は伸びる見込みです。
2026年に入って市場を動かした主な車種を並べると——トヨタ bZ4X(大幅アップデート・実質350万円)、スズキ eビターラ(実質312万円)、日産リーフ B5(実質221万円)——と、補助金後300万円台以下に入る選択肢が一気に増えました。「EVは高い」という心理的ハードルが下がったことが、77%増という数字の背景にあります。特に日産リーフ B5の実質221万円という価格帯は象徴的です。HVの普及を後押しした大きな要因のひとつが「ガソリン車との価格差の小ささ」でしたが、EVもようやくその水準に近づいてきたことになります。
「電動車全体の比率が下がった」は本当に悪いニュースか
電動車の販売比率が前年より1.3ポイント減少して54.4%になったことは、「電動化が後退した」と受け取るべきでしょうか。個人的にはそうは読んでいません。比率が下がったのは、HVという「大きな固まり」が縮んだからです。そしてHVが縮んだ一因は、EVが育ってきたことにあります。「電動車全体が減った」のではなく「電動車の中身が変わりつつある」という解釈の方が実態に近いと思います。
EVの絶対台数は増えており、2026年3月には一時4.07%まで上昇し、2023年のピーク水準に迫る数字を達成しています。当時は軽EV(日産サクラ)の発売という特需がありましたが、今回は普通車EV全般の底上げによるもので、より持続的な成長の可能性を秘めています。
この先に何が来るのか——2028年という変曲点
HVのマイナスが続く中で、今後の市場をどう見るべきか。ひとつのキーワードは「2028年」です。日産は2028年度を目標に全固体電池の実用化を目指しており、これが実現すれば充電時間の大幅短縮とコスト削減でEVの価格競争力がさらに高まります。またトヨタも同様のタイムラインで全固体電池の量産を計画しています。次世代バッテリー(全固体電池)が今後の普及を加速させる鍵になると予測されています。
2028年という節目に向けて、現在のHV減少・EV増加という流れはさらに加速する可能性があります。「HVの買い替えサイクル」に入っている消費者が、2028年に全固体電池搭載EVの選択肢が出てくるまで「あと2年待つ」という判断をしている可能性もゼロではありません。
モデルYオーナーとして感じること
2年前にHVではなくEVを選んだとき、周囲から「もう少し待った方がいい」「HVの方が安心」という声を何度か聞きました。今のデータを見ると、その「HVの方が安心」という固定観念が揺らぎ始めている気がします。補助金が増え、車種が増え、充電インフラも整いつつある。HVの8カ月連続マイナスという数字は、その流れが市場に現れ始めた証拠のひとつとして読めます。
もちろん、HVが完全に役割を終えたわけではありません。自宅充電ができない環境・長距離移動が多い用途・充電インフラが整っていない地域——そういった条件下では、HVはまだ合理的な選択肢であり続けます。ただ「何も考えずにHVを選ぶ」という時代は、少しずつ終わりに近づいているように感じます。
HVの8カ月連続マイナスは、日本の自動車市場が「大きな踊り場の手前」にいることを示す数字です。EVを選んだ自分としては、この変化を歓迎しつつ、その行き先を引き続き注視していきます。
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