車の中が「スマホ化」していく
EVに乗ると真っ先に感じるのは「ボタンが少ない」ということです。
ダッシュボードに並ぶスイッチ類は最小限、代わりに大画面ディスプレイがどんと構える。
エアコンの温度も、ミラー調整も、車の設定もタッチ操作で完結。
テスラをはじめ、BYDや日産アリアなど新世代のEVたちは、まるでスマートフォンのようなUI(ユーザーインターフェース)を採用しています。
この流れは単なるデザインの変化ではなく、「車と人の関係」を根本から変えようとしているように感じます。
テスラ:UI進化の象徴──“ボタンのない車”の先駆け
テスラが登場した当初、多くの人が驚いたのはその内装でした。
中央に配置された巨大なタッチスクリーン。
そこに、走行モード・ライト・ワイパー・空調・トランク操作など、ほぼすべての機能が集約されています。
この“ボタンレス化”こそ、テスラUIの哲学です。
物理スイッチを極限まで減らし、ソフトウェアで制御できる範囲を最大化する。
それにより、アップデートでUIを進化させることが可能になりました。
たとえば、
・ソフトウェア更新でメニュー構成が刷新される
・オートパイロットやカメラ表示がより直感的になる
・シートヒーターの制御や空調の吹き出し位置まで画面で自在に操作
まさに“車が成長するUI”。
この柔軟性が、テスラを単なる車ではなく「進化するデバイス」に変えたのだと思います。
BYD:生活家電のようなUI設計
中国のBYDは、UIの進化を「わかりやすさ」と「親しみやすさ」の方向に振っています。
特徴的なのが、回転式のセンターディスプレイ。
縦向きにも横向きにも変えられ、ナビ・動画・アプリなどの表示を柔軟に切り替えられます。
この操作性は、中国のユーザーが日常的に使うスマホ文化と非常に相性が良い。
アイコンも色鮮やかで、メニューもアプリライク。
まるで家の家電パネルを操作するような感覚で使えます。
UIの反応速度やアニメーションも滑らかで、視覚的な“気持ちよさ”が重視されています。
テスラが「合理的なUI」なら、BYDは「感覚的なUI」。
車内体験が“スマホ的日常”に近づいているのが印象的です。
日産アリア:人間らしさを残したUIデザイン
一方で、日本メーカーの日産アリアは、物理スイッチを完全には排除していません。
ダッシュボードには「触覚フィードバック付きスイッチ」が埋め込まれており、指で触れるとわずかに振動して“押した感覚”が返ってくる設計です。
これは、デジタルとアナログの中間のようなUI。
完全なタッチ操作に抵抗を感じる層にも自然に受け入れられるよう配慮されています。
操作のレスポンスも穏やかで、あくまで人の感覚を尊重した設計思想が伝わってきます。
アリアのUIは、未来的でありながら「人の温度を残す」アプローチ。
海外勢の“大胆なデジタル化”とは違う、日本らしい繊細なバランス感覚が感じられます。
“ボタンがない”ことは本当に正解か?
UIが進化する一方で、「ボタンをなくしすぎること」への懸念もあります。
走行中、すべてをタッチパネルで操作するのは危険を伴います。
たとえば、音量を調整する、エアコンを少し下げる──その一瞬の視線移動が、運転の集中を奪ってしまう。
実際、テスラユーザーの中でも「やはり物理ボタンはあった方がいい」という意見は根強いです。
特に、運転中に“感覚で操作できる”という点では、ボタンの方が優れているのは確か。
UI進化の理想は、“便利さと安全性の両立”です。
ディスプレイの洗練だけでなく、AI音声アシスタントやハプティック(触覚)技術など、人間の動作を補うインターフェースの進化が、これからのカギになるでしょう。
EVのUIが目指す未来──“空間全体がインターフェース”に
テスラのFSD(自動運転)が進化するにつれ、車内のUIも“運転操作”から“体験操作”へと変化しています。
今後は、画面を触らずとも、車がドライバーの意図を理解して動く世界になるはずです。
音声や視線、表情、体温、心拍。それらを読み取り、快適な温度や照明を自動で調整する。
まるで車が人を「理解している」かのようなUX(ユーザー体験)が生まれるでしょう。
UIが“画面”という領域を超えて、“空間そのもの”になる未来。
それは、テクノロジーが人に寄り添う究極の形なのかもしれません。
まとめ──UI進化の先に残る「人の感覚」
EVのUIは、スマートフォン文化を背景に急速に進化しました。
テスラは機能美で、BYDは遊び心で、日産アリアは温かみでそれぞれの方向を示しています。
ただし、技術が進んでも、最後に残るのは「人間の感覚」です。
操作の手触り、画面の光、音の反応──そうした微細な要素が、“その車を好きになる理由”をつくっているのだと思います。
物理ボタンがなくなる未来でも、「触れる喜び」や「感覚としての安心感」をどう再現するか。
それが、EV時代のUIデザインが抱える最大のテーマではないでしょうか。
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