日産は日本メーカーの中でも最も早くEV市場に挑戦したパイオニア的存在です。2010年に登場した「日産リーフ」は、世界初の量産型EVとして50万台以上を販売し、「EV=日産」というブランドイメージを確立しました。
しかし現在、テスラや中国勢が台頭する中で、日産の存在感はやや薄れつつあります。かつてEVの先頭を走っていた日産が、なぜ停滞し、今どこへ向かおうとしているのか。本記事では、リーフからアリアに至る日産EVの歩みと再成長のシナリオを考察します。
リーフが切り開いたEV時代の幕開け
2010年当時、EVは“未来の車”という印象が強い時代でした。航続距離は200km前後と短く、充電設備も限られていましたが、リーフは「エンジンのない車が日常で使える」ことを世界に示しました。
静粛性、低重心の安定した走り、環境性能。これらが都市部のユーザーに受け入れられ、ヨーロッパを中心に支持を集めました。リーフは“EVを特別な車から身近な車へ”変えた存在だったのです。
競争環境の変化と先駆者のジレンマ
2015年以降、EV市場はグローバル競争の時代に突入します。テスラが高性能EVで市場をけん引し、中国メーカーが低価格モデルで急拡大。リーフは改良を重ねたものの、デザインや航続距離で競合に後れを取りました。
さらに、経営体制の混乱も重なり、EV投資の停滞が発生。先駆者でありながら更新スピードで後れを取る、いわば“先に走ったがゆえのジレンマ”に陥ったのです。
アリアが示す再挑戦の方向性
2022年登場の「アリア」は、日産EVの再出発を象徴する一台です。
内外装の質感を高め、独自の電動4WD技術「e-4ORCE」で走行安定性を向上。デザインも未来的で、テスラや欧州勢に真っ向から挑む意欲作です。
ただし価格は500万円を超え、一般層には手が届きにくい設定。半導体不足も影響し、生産・販売の立ち上がりは想定より鈍くなりました。技術的には高評価ながら、ビジネスとしての量産拡大が今後の課題です。
日産EVが抱える課題
現時点での日産EVの課題は大きく三つあります。
まず、ラインナップの少なさ。リーフとアリアの2車種中心では層が薄く、SUVやセダン、軽EVなど多様なニーズへの対応が必要です。
次に、価格競争力の不足。電池調達を外部に依存しているためコスト面で不利であり、量産効果も限定的です。
そしてブランド再構築。かつて「EVの代名詞」だった日産が、再び独自の哲学と価値を発信できるかが問われています。
再成長へのシナリオ
日産が再びEV市場で存在感を取り戻すためには、単に車を作るだけでなく、技術・事業・社会インフラを横断した再構築が不可欠です。今、日産の次なる成長のカギは「EVをどのように社会の中で活かすか」に移りつつあります。
まず注目すべきは、全固体電池の実用化です。日産は2028年の量産化を目指しており、これが成功すればEVの常識を覆す転換点となります。充電時間は現在の1/3以下に短縮され、航続距離は600〜800kmクラスへ拡大。さらに軽量化・長寿命化が進み、車両設計の自由度も大幅に向上します。
この技術は単なる性能向上ではなく、家庭や街全体を支える「分散型エネルギー社会」への基盤となります。日産はEVを“走る蓄電池”として、住宅や電力網とつなぐ構想(V2X)を進めており、エネルギー企業的な役割を担う未来すら見えています。
次に、事業モデルの転換です。今後の自動車産業では、「所有から利用」への変化が進みます。日産も欧州を中心にリース・サブスクモデルを展開しており、今後はデータ活用による走行支援や遠隔アップデートなど、EVを軸としたモビリティサービス企業への進化を目指しています。
これにより、「車を売るメーカー」から「移動を提供する企業」へと、利益構造を継続収益型へシフトさせる可能性があります。
また、自動運転とAIの融合も再成長の柱です。日産はすでに「プロパイロット2.0」でレベル2相当の自動運転を実現していますが、将来的にはAIによる高度な走行判断と交通連携を視野に入れています。高齢化が進む日本では、EVと自動運転の組み合わせが移動弱者を支える社会インフラになるでしょう。
小型自動運転EVを活用した自治体の地域交通や、災害時の避難支援など、日産が地域社会に密着した“モビリティソリューション”を提供する未来も想定されます。
さらに忘れてはならないのが、アライアンスを軸にしたグローバル戦略です。日産・ルノー・三菱の再編が進み、共同開発による新しいEVプラットフォームが登場予定です。欧州やインドでは低価格EVを、アジアでは軽・コンパクトEVをそれぞれ展開し、コスト競争力とスピードの両立を狙います。
単独では難しい市場開拓を、アライアンスによって補完できる点は日産の強みです。
こうした技術革新と事業構造の転換、そして社会との接続を通じて、日産は「EVの再定義」を進めています。リーフで示した“誰もが使えるEV”という理念を、エネルギーとモビリティの両面で進化させられるかどうか——そこに、日産再成長の未来がかかっています。
まとめ
日産はEVの先駆者でありながら、競争の激化や経営の混乱で一時的に主導権を失いました。
しかしアリアを皮切りに再び電動化を軸にした戦略を再構築し、全固体電池や自動運転技術への投資も進行中です。
リーフが示した「誰もが使えるEV」という原点に立ち返りながら、技術革新と社会変化にどう対応するか。日産EVの挑戦は、まだ終わっていません。むしろ新しい章がいま始まろうとしています。
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