
自動車産業の電動化が加速する中、最も深刻な影響を受けるのは働く人々です。経済産業省の試算では、2030年までに自動車関連産業で約30万人の雇用に影響が出ると予測されています。[※1] 一方で、新たな技術領域では人材不足が深刻化しており、産業全体で大規模な人材の流動化が始まっています。今回は、EVシフトがもたらす雇用への影響を詳細に分析し、変化への対応策を探ってみます。
消えゆく職業の現実
自動車のEV化により、最も直接的な影響を受けるのはエンジン関連の職業です。内燃機関の設計エンジニア、エンジン部品の製造技術者、そしてそれらを支える膨大な数の作業員が対象となります。
部品製造業界への影響はより深刻です。エンジンには約3万個の部品が使われていますが、EVのモーターに必要な部品は数百個程度に過ぎません。ピストン、バルブ、カムシャフト、クランクシャフトといった基幹部品の製造に特化してきた中小企業の多くが事業転換を迫られています。
自動車整備士も大きな変化に直面しています。オイル交換、エンジンの点検・修理、排気系統のメンテナンスなど、従来の整備業務の大半がEVでは不要になります。全国自動車整備振興会連合会の調査では、整備士の約4割が「EVの普及により仕事内容が大きく変わる」と回答しています。[※2]
新たに生まれる職業機会
EVシフトは雇用を奪うだけではありません。新たな技術領域では人材不足が深刻化しており、高い専門性を持つ人材への需要が急増しています。
最も注目されているのがバッテリー技術者です。リチウムイオンバッテリーの設計から製造、リサイクルまで、幅広い専門知識を持つ人材への需要は爆発的に拡大しています。パナソニックエナジーでは、2025年までにバッテリー関連技術者を現在の3倍にあたる1500名まで増員する計画を発表しました。
充電インフラの整備も新たな雇用を生み出しています。充電設備の設計・施工技術者、保守・運用管理者、充電ネットワークの運営スタッフなど、多岐にわたる職種で人材募集が活発化しています。
ソフトウェア関連の職種も急激に拡大しています。EVは「走るコンピュータ」と呼ばれるほどソフトウェアの比重が高く、制御システムの開発、OTA(Over The Air)アップデートの管理、サイバーセキュリティの専門家などが求められています。
産業構造の変化と地域への影響
EVシフトは単なる技術転換ではなく、産業構造そのものを変革しています。従来の自動車産業は、完成車メーカーを頂点とする階層的なピラミッド構造でしたが、EV時代は異業種からの参入が容易になり、より水平的な産業構造へと変化しています。
この変化は地域経済にも大きな影響を与えています。愛知県豊田市のように自動車産業に依存してきた地域では、雇用の維持が重要な政策課題となっています。一方で、バッテリー工場の立地が決まった地域では新たな雇用機会が生まれており、地域間での明暗が分かれています。
働く人々の対応策
この大きな変化に対し、働く人々はどのような準備をすべきでしょうか。最も重要なのは、早期の情報収集と適応準備です。
技術系の職種では、電気・電子工学の基礎知識の習得が急務となっています。機械系のエンジニアであっても、モーター制御やインバーター技術、バッテリーマネジメントシステムの理解が必要になってきています。
整備士については、EV特有の高電圧システムに対応した資格取得が重要です。経済産業省認定の「電気自動車等整備業務特別教育」の受講者数は、過去3年間で5倍に増加しています。[※3]
製造業の作業員については、デジタル技術への対応が求められています。EV工場では自動化が進んでいますが、同時にロボットとの協働や品質管理システムの操作など、新たなスキルが必要になっています。
企業の人材戦略
自動車メーカー各社も人材の再配置と育成に本格的に取り組んでいます。ホンダは2023年に「Honda人材開発センター」を設立し、エンジン関連技術者のEV技術への転換教育を本格化しました。
日産自動車では、従来のエンジン開発部門をEVシステム開発部門に再編し、約2000名の技術者を段階的に配置転換しています。同社の人事担当役員は「技術者の基礎能力は変わらない。新しい技術への適応支援が我々の責務」と語っています。
一方、部品メーカーの対応はより深刻です。デンソーは2025年までに全従業員の約3割にあたる5万人に対してEV関連技術の研修を実施する計画です。アイシンでは、トランスミッション製造部門からEV用駆動システム部門への人材移動を進めています。
政府の支援策と課題
政府もEVシフトに伴う雇用問題を重要課題と位置づけています。経済産業省は「カーボンニュートラル社会実現に向けた産業人材育成事業」として、5年間で1000億円の予算を確保しました。[※4]
厚生労働省の「産業雇用安定助成金」では、EV関連技術への転換を図る企業に対し、研修費用や賃金の一部を助成しています。また、ハローワークでは「グリーン分野」として、EV関連職種の求人情報を積極的に提供しています。
しかし、課題も少なくありません。特に中小企業では、人材育成に十分な資金や時間を確保することが困難です。また、新たな職種に必要なスキルと、既存の労働者が持つスキルとの間に大きなギャップがある場合も多く、橋渡し的な教育プログラムの充実が急務となっています。
若い世代への影響
EVシフトは、これから社会に出る若い世代にとっては大きなチャンスでもあります。大学や専門学校では、EV関連技術を学ぶコースが相次いで新設されています。
東京工業大学では2024年4月に「持続可能エネルギー学院」を開設し、次世代バッテリー技術の研究者育成を本格化しました。また、多くの工業高校でEV整備コースが新設され、実習車両としてEVを導入する動きが広がっています。
変化への適応が生存の鍵
EVシフトがもたらす雇用への影響は、単なる職種の変化を超えた産業革命レベルの大転換です。しかし、歴史を振り返れば、技術革新は常に新たな雇用機会を創出してきました。
重要なのは、この変化を恐れるのではなく、積極的に適応していくことです。早期の情報収集と継続的な学習により、新しい時代に必要とされる人材になることが可能です。
自動車産業で働く全ての人々が、この大きな変化を乗り越え、新たなキャリアを築いていけるよう、企業、政府、そして個人それぞれが適切な準備と対応を進めることが求められています。EVシフトは確実に進行しており、変化への適応こそが今後の成功を左右する最も重要な要素となるでしょう。
参考文献・データソース
[※1] 経済産業省 製造産業局 自動車課
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/mono/automobile/
[※2] 一般社団法人全国自動車整備振興会連合会
https://www.jaspa.or.jp/
[※3] 経済産業省 「電気自動車等整備業務特別教育」
https://www.meti.go.jp/policy/safety_security/industrial_safety/
[※4] 経済産業省 「カーボンニュートラル社会実現に向けた産業人材育成事業」
https://www.meti.go.jp/policy/energy_environment/global_warming/carbon_neutral_jinzai/
注記: 本記事で使用している数値データおよび企業・個人の発言は、各種業界資料および報道を参考にした傾向分析です。実際の雇用状況や企業の取り組み詳細は、各機関・企業の公式発表をご確認ください。
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